長年、製品レベルの電子機器を作ってきました。
それは副業なので私のことをよく知っている人でないと知らないと思います。
来年に向けて、今日は少しプロタイプとの差というか、プロトタイプだけだとどうしようもないというか、そのあたりを書いてみたいと思います。
このブログは常に読んでいただく記事トップ10が出るようにしているのですが、「ピエゾスピーカーの鳴らし方」は常連で掲載されています。この記事を書いたのは2018年ですから、ずいぶん古い記事です。でも、いまだになぜ人気があるのかわかる気がします。
ArduinoかなにかシングルボードコンピューターでIOTプロトタイプを作ってうまくいったら、家で使ってみたりしたくなるのは当然です。外に持ち出せれば周囲の人に見せて、少しばかり自尊心を満足させることもできます。
そうすると、売り物とは言わなくても実用レベルには引き上げたくなります。
ブレッドボードで作ったのならピンを固定するか、プリント基板にはんだ付けして回路を安定させなくてはいけないし、できれば小洒落たケースに入れたい。(台所密閉容器なんてダサすぎるので止めましょう。)5V電池なんてないので、電源系を追加することもあるかもしれません。操作も数秒で見せる状態にもっていけないと、見ている人はシラケます。
もちろん「アラーム」という以上、それなりの音で鳴らなければ格好つきません。
人に見せるだけでもこれだけの作業が発生します。
さらに困ったことが起きます。普通のプロトタイプは「なにかが起きたら」のなにかの代わりを手でやったりします。電線をショートさせたりね。
しかし、その「なにかが起きた」ことを検知するということ自体が簡単ではないことが多いのです。
例えばエレベーターに乗るとボタンはほとんどがタッチ式ですよね?あのタッチしたことを知るということは意外に難しいのです。
PICマイクロプロセッサーにタッチ検知機能を搭載したものがあるので、それを利用してまたひとつ回路を組むかもしれません。
そして先程のアラーム回路とタッチ検知回路を組み合わせたとします。
するとなにげなく使っていたGPIOが、ライブラリーの制約で使えなかったり、他の回路と衝突してしまって再設計にまで戻ったりします。
「アラーム」と言ったのに、耳をすませなきゃ聞こえないとか。。。
あらゆる電子部品をサンプル回路どおりに動かすことは簡単です。サンプル回路を提供するメーカーは当然、試作してますから動作します。
ここまでなら、目新しいものの単なるテストと学習であって、人に威張れることではないと思っています。
私もしばしば基礎的な回路について記事を書きますが、それは自分のためのメモであって、なにか本来の目的があってのことです。
こう書くと傲慢かもしれませんが、知らないデバイスを試す時にGoogleで事例を検索すると、大半が参考になりません。理由は単体で、趣味の電子工作などやっておられる方の記事は動けば満足というゴールなので、メーカーのサンプル回路のマネがほとんどだからです。
思い出すままに結構Googleで海外まで検索しても事例が見つからず、手間がかかった事例を書きます。
- PICなどを超省電力で動作させ、半年、一年、ボタン電池をもたせる
(製品としてはよくありますよね) - 30Aくらいの電流のオンオフ
(いまだに正解は出ませんが、モーターを使うと12V程度でもこれくらい流れます) - ステッピングモーターを車のように使う。
(ほとんどのステッピングモーターが3Dプリンターにフォーカスしていて、角度制御はできますが、回転制御はあまり例がないのです) - Arduinoなどに複数のセンサーをつなぐ
(たちまちライブラリーの制約が露呈します)
巷で「電子機器のプロトタイプ」について本を書いている人達の何人かを男女問わず知っていますが、とうてい実用レベルのものが作れる人々ではありません。
ですから、街中で「プロタイプなんとか」をやっている人に相談しても、良い答えは知らない確率が非常に高いです。
ちょっとした実用回路となると、とたんにハードルが上がるのですが、自分で解決するしかありません。
それがまだ世の中にないものならば、なおさらです。
上の例で言えば、超省電力回路なんてここで公開していますが、解決に2年くらいかかったかな。
プリント基板のパターンは、さすがに専門家に依頼しています。基板上の線の取り回しは素人がやるとあまりいいものになりません。ICによっては(とくにアナログ)基盤に取り付けた足を放熱に利用しているものもありますから、経験豊かな人にお願いしたほうがいいと思います。
量産の場合、ケース加工は業者さん、組み立ても業者さんにお願いします。加工は素人と業者じゃレベルが違います。
私はこうやって谷を乗り越えてきました。