サラリーマンのふり

ドイツの生産性に日本は追いつけない

最初にお断りしておきますが、以下はすべてオフィス内の話です。

「残業しない」「バカンスを取る」ドイツ人に、日本人は2倍働いても敵わない

外資系というか、ドイツ最大のソフトウェア企業のSAPで長年働いていた私から見た日本のオフィスワーカーの生産性の悪さについて記します。

日本企業と他の国の企業の最大の違いは「リスクへの許容度」です。日本の会社はあらゆるリスクを嫌いますから、ミス、事故が発生しないように担当者が細心の注意を払って作業します。そして誰かが休んで作業が止まっていると知ると激怒します。
オフィスを思い起こしてください。精神論が飛び交っていませんか?「誰だ、この書類作ったのは。間違えているじゃないか。たるんでいる」「え、担当者がいないと御社は作業が止まるんですか?」などと平然と話しますよね。

同じ日本でも工場では「こんなミスが出てしまった。防ぐにはどうしたらいいんだろう?」というカイゼン活動を続け、モノによっては欠陥品の発生率がppm(100万分の1)程度だったりします。精神論は出てきません。それでもドイツより生産性が悪いと言われているのです。
工場の正確さとオフィスのだらしなさをごちゃごちゃに論評してしまうのが日本人による日本の評価ではないでしょうか。背後には工場勤めをバカにする風潮があり、「工場ごときでできていることはオフィスでは実現できとるわ」という自惚れがあるような気がしますが、私だけでしょうか?

これがダメな理由です。

以下のグラフは以前も使いました。労力と成果物の関係です。
労力の1/3で成果の80%ができてしまうという、厳然たる事実を認識してください。

書類を作ったら途中でいいから、周囲のフィードバックを得るべきなのです。ミスのない完成品を作って、周囲から「こういうことじゃない」とか「ここミスがあるよ」と言われたら、残業です。逆にいえば完成品を求めている周囲も問題なのです。80%の労力を無駄にするから生産性が悪いのです。

最近、日本企業でも上司との1o1ミーティングをすることが多いようです。SAPで上司とミーティングする時に、事前に資料を渡し「今日はこれのディスカッションしたい」と細かくフィードバックを得ることはごく普通に行っていました。1o1ミーティングでなにを話せばいいかわからないということが愚問だとおわかりでしょうか。形だけ真似ても意味はないのです。もし、外資系企業の1o1ミーティングで「今日は話題がない」と言うと休暇明けか、働いていない時です。

日々の仕事はチームなのだから、チームメンバーとも密接にフィードバックのやりとりをするのです。私は日本企業というとNTTしか知りませんが、上司と部下の会話が少なかったように感じます。

もう一点は、休暇についての許容度です。SAPはご存知のようにERPを作っている会社です。ERPは膨大なコンポーネントでできています。開発部門にも大量に人はいますが、コンポーネント単位になると小さいチームとなります。そこのリーダーが休暇なんてことはよくあります。それで仕事が止まっても、誰も文句はいいません。だって、お互い様だからです。
日本の企業が休暇を許せない、子育てを許せないのは、自分の人生で起きる重要なできごとについて共感しない、自分が子供のころを忘れている、もしくは過去に経験していてもイヤな思いをしたからではないでしょうか。
命がかかっていない仕事以外は「仕事とは家族が食べるための稼ぎを作り出す場」に過ぎません。仕事を主体に考えてしまうから、生産性が落ちるのです。

ところが不思議なことに「ますますバカほど得をする社会」に書きましたが、日本は逆に不勉強なやるべきことをやっていない人間には優しいのです。

日本がドイツ並みの生産性を得ようとするならば、オフィスでの仕事のやり方を大幅に変えねばなりません。管理職とはなにかの基本的な教育すらサボっている日本企業の人事部ではとうてい無理じゃないかと思います。

上で書いた程度のことで生産性はめちゃくちゃに変わるのです。単純な話です。

ついでにいつもの持論です。
日本の企業で使っている基幹システムは何十年も前に自社が紙でやっていたプロセスをコンピューターに置き換えたに過ぎません。転職したこともないのに、「俺の会社のシステムは世界一」とかワケのわからん感情論がまかりとおってきました。そういう夜郎自大なシステムを尻目にプロセスがオープンなERPは(別にSAPに限らず)毎年、進化してきました。古いシステムより性能が高くて当たり前です。

日本のITシステムは絶望的で「IT棄民」という言葉さえ囁かれています。IT産業はすべてが海外からの輸入ですが、CIOという言葉も輸入されました。しかし海外企業でCIOといえば経営陣です。日本では実質、システム担当部長さんではありませんか?日本企業におけるシステムとはその程度の扱いなのです。あなたがIT部門をパソコンの便利屋と誤解しても仕方ありません。
古い企業でオフィスの生産性をあげることは、とてもむつかしいと思います。

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