起業

年寄りの仕事のチャンスが増えるだろう

だいぶ昔に「日本の本当のヤバさは若者の無知」という記事を書いたことがある。

私のいるIT業界においては作業する若者にだんだん知識が要求されない、知識をもっていない時代だということだ。

もちろんシステム構築をする会社で「ラボ」とか「研究室」などを持っているところは少なくない。
いや、オープン系システムの構築会社はたいてい持っていた。
そこで「検証」と称してプロトタイプを動かし、勉強し、その知見を社内で広めていた。

こうするとお客さんの現場でトラブルが発生しにくくなる。新製品の治験が社内に貯まるといいことばかりなのだが、欠点は「費用がかかり、その効果が数字で見えづらいこと」

だからそういう「ラボ」や「研究室」は大手以外では消え去ったのではないだろうか。
某コンサルティング会社はお客での構築前に必ず社内でテストをし対策するようで、圧倒的にトラブルが少ない。
効果は立証されているが、そんな会社はほとんどない。

費用負担を嫌って廃止するとどうなるかというと、やはり製品のベンダーに聞きまくることになる。現場は辛いだろうが、社の上層部にしてみれば研究室の費用を削れてウマーなのだろう。

さらにまずいのは社内にノウハウが貯まらないこと。

「ナレッジマネージメント(Knowledge Management)」というけれど、さまざまなプロジェクトで起きたトラブルの原因と解決策の管理をやっている会社を聞いたことがない。(実際にいろんな会社に聞いてみた)

ちょっと昔は「ラボ」や「研究室」を管理しているシニアなエンジニアが頭の中に蓄えていたり、時間がある時にノウハウとして出していた。
しかし今、そんなことをしている会社はないことを調査結果で知っている。

社内にシェアポイントフォルダーがあって、プロジェクトのドキュメントを見ることができる、がせいぜいだ。

さて、一方で55歳役職定年で、シニアな人の肩書を取って平社員にしているところが多いと聞く。
平社員になった人の多くはプライドが傷ついて会社を去るだろう。それは会社の思惑どおりだ。

大学を出て23歳くらいで勤め始め、5年くらいで仕事を覚え、もう10年くらいリーダーで働き、38歳。そろそろ肩書がつく。
そこからナレッジのアップデートはなされないまま10年くらい働くと48歳。
ジェネラリスト志向の会社は途中からローテーションさせて、よくわからない管理職を増産し、なんとか代理とか担当なんとかで8年くらいあれこれやらせると、55歳。

こう考えるとほとんどの会社は現場から産まれたナレッジの紛失についてなにも考えていないのではないだろうか?
これが以前からすごーく気になっていたんだ。

確かに日本政府は年金政策の取り返しのつかない失敗を70歳定年で企業側に払わせようとしている。
企業側は、一昔前の定年年齢55歳でいったんリセットし、再雇用という形で捨て扶持を与える施策にした。
これは企業としては自己防衛のために取らざるを得ない方策だと思う。

しかし55歳役職定年は、働いている個人からみると、自分にリセットをかけるチャンスである。
あなたが業務に真剣に向き合っていたのであれば、大量のケースが記憶に残っているはずだ。
しかし、その頭の中に蓄えられたナレッジは、おそらくその会社にはもうない。
なぜならば、きちんとナレッジ管理をしている会社は皆無だから。
IT業界以外でも、目先の費用対効果しか考えない今の日本企業の経営でそんなものを維持するだろうか?

会社における人生の中で、ジェネラリストのスキルではなく技術的スキルから離れなかった人はフリーランスとしてでも仕事のチャンスが増える気がする。
こういう形の仕事が増えるのではないだろうか。。。
(追記2021/11/6: もし、そういうコンサルタントになりたい方がおられるならば、パワーポイントの使い方とコンサルタントが作った資料を大量に読み込みパターンを把握すること。「マッキンゼー流図解の技術」は座右の書となるだろう)

書いていて「ロストテクノロジー」という言葉を思い出した。
例えば戦艦大和の主砲はもう日本では作れないそうだ。呉に使った旋盤は残っているが職人がいないため、どうやって主砲をくり抜いたのかわからないらしい。
刃物関係にはそんな話が多い。日本刀でも古刀と呼ばれる安土・桃山時代までの刀は現代の刀と違い、材料も製法もわからないそうだ。

かようにナレッジはちょっと油断すると、いとも簡単に消え去るのだ。

今、どうしようもなくなっている、みずほ銀行のシステムMINORIもトラブルの根はロストテクノロジーだと思う。
私が加わっていた「第三次オンライン」は1980年代に終了したが、それから第4次オンラインの構築まで時間を置きすぎた。30年以上が経過しており、人のナレッジは失われた。
おそらく定年を過ぎた人々を再雇用してでも、要件定義したほうがよかったのだと思う。
いないまま作ったシステムの一部はロストテクノロジーとなり、おそらく古いシステムを抱え込んだままなのだろう。

我々はナレッジのロストを今、見ている。
規模は違えどナレッジはビジネスになる。

関連記事

  1. 年収100万円や平均給与を上回れない理由

  2. 起業するために人脈なんていらない

  3. 経営者は規模によりまったく違うスキルがいる

  4. 失敗しないECサイト

  5. 若くても、年をとっても、レールを外れたと思う時

  6. 代替療法ビジネスの地域性

  7. 中高年で再就職が難しくなる理由

  8. 私は仕事ができると思っている人は起業しちゃダメ

記事をプリント