おっさんだから、昔を知っている。
その違いで社会の変化を知ることがある。
若者には残念だけど、わからないことだ。
そのひとつが、「機械が仕事を奪う」ということだ。
要約:
- 単純事務作業はコンピューターが奪った
- IT部門と独立系IT会社のリストラがはじまる
- 社内でもこういう人はリストラされる
今から30年くらい前は、高校を出て一般事務で就職する女性ってのは普通にいた。会社も社員の花嫁候補で若い子のほうがいいということを露骨に示していて、履歴書もどこで誰の子かということが重視された。
コンピュータが出てきて、パソコンが出てきた。
ワープロが出てきて、エクセルが間違いのない計算を始めた。
いまだにパソコン大好き少年をオタクというが、オタクの歴史は優に20年を超える。オタクの多くは教育水準が高く、世の中を変えるものを作り出した。
一般社会ではその成果を利用して、計算、清書、連絡、スケジュール管理といったことをやる人が不必要になった。
この変化はすごくゆっくりだったが、確実に一般事務の仕事はなくなっていった。
すごく不思議だけれど、今の一般事務は大昔の女性の10人分くらいの生産性だと思う。(もちろん、パソコン、マイクロソフト・オフィスを使える前提)
で、給料は変わっていない。
なぜか? 実はオフィスだけを見ているとなにもわからない。工場ではもっと劇的に生産性があがっていったのである。
それに比べオフィスは生産性があがりにくく、一般事務の効率化がかろうじて向上した。
しかし、パソコンが広まる中で、別の仕事が拡大した。
それはIT部門である。
メインフレームしかない時代、IT部門はかなり大きかった。当たり前でメインフレームを買えるお客さんが限られたからである。
最初はお客が技術者を丸抱えしていたが、メーカー子会社が人を確保、教育、提供することになった。
そのうち目先の効く人間がそこから独立して人を集めて供給することを始めた。
現存しているほとんどの独立系といわれるIT企業はこの流れである。
技術潮流もこの流れを後押しした。
メインフレームの垂直統合が否定されつくし、水平統合モデルが出てきた。Unix, TCP/IPなどはメーカー各々が作った機器をつなぐ重要な技術である。
この組み合わせは絶対であり、未来永劫続くかと思われた。
今でも独立系IT会社の役員の多くはそれを信じているだろう。否定すれば、自社の未来がなくなるから。
人は自分の都合で未来を歪曲するのである。
もっと安直なマイクロソフトにおんぶに抱っこの会社も多数ある。
技術が、とか、顧客に最適のものを、と言ってはみてもマイクロソフトの技術をどれだけ理解したかだけで商売をする。
1990年代から水平分業が盛んになり、2014年の今までついに日本のIT会社が世界に貢献する技術は出なかった。すべて輸入品(Shift-JISもかな漢字変換も)である。
日本の「情報処理学会」の陰すら見えなくなったのは、何年前からだろうか。学問としても終了しかかっているということだ。
たまに情報処理系の大学院修士、博士の論文を見るが、高専の卒業研究と大差ない。若干の数学の使い方で違いがある程度だ。
教授よりも高専の先生のほうが優秀だったりする。
ここ数年、システムの仮想化が進んだ。みんなサーバー台数が減ると経済的だし、管理も楽になるので喜んで仮想化した。
しかし、この仮想化により実はインフラ系のエンジニアは不必要になるのだ。
もちろん、今すぐではない。
しかし、次にくるクラウドを考えたら簡単にわかる。仮想化されたシステムは、もう顧客のサーバールームにある必要はない。
お客はネットワーク機器をいくつかもてばよく、インフラは必要なくなる。
いろいろ反論したい人はいると思う。しかし、一般事務女性が淘汰されたように、経済原理には勝てないし、経済原理に沿うように「個別の事情」も変わるのだ。
「絶対違う」というのなら、「じゃぁ、いまだにメインフレームで仕事しているの?」と聞いておこう。
(原子力発電所みたいにできた時にパソコンがなくて、入れ替えできないところは使ってるんだろうな。おぉ、怖っ)
今、システムはクラウドに向かう。
クラウドは、ビジネスモデルが無料であることに注目してほしい。
AmazonのAWSのようにもともとクリスマス商戦用の余剰サーバーの利用や、Googleの検索エンジンの余剰サーバーの利用から発生してきた。
本業で鍛えられた技術が使われているから、あらゆるノウハウがすでにできている。
そこに最初からお客さんに払ってもらうために作ったクラウドは、技術も借り物、価格でも太刀打ちができない。
プライベートクラウドという言葉をセールスフォースのCEOが「まがいもの」と切り捨てたとおりである。
なんの技術を創りだしてもいない、ほとんどの独立系IT企業は技術の供給元を絶たれつつある。
海外のメーカーからすると、無料で技術を教える余裕がもうないのだ。本屋にいけばわかる。オープンソース以外の技術書はほとんどない。オープンソースは重要だけれども、企業のサーバーからするとごく一部である。
だから、日本の独立系IT企業は仕入れが無料のオープンソースと叫ぶのだと思う。オープンソースの日本語の本はたくさんあるからね。
今後、いろんなこと(例えばIT部門を抱き込んで共存の道を探るなど)をしながら、顧客のIT部門の半分と共に消えていくだろう。
毎年、ハードウェアの新製品が出るがそれらはすべて「より大きく、より早く」とハイエンドを目指す。
それを購入する企業はもともと極々限られている。
これからしばらくはIT部門と経営者の間で、クラウドを介して戦いが繰り広げられるだろう。
ここからはアプリケーションの話を書く。
アプリケーションの世界もインフラと変わらず、標準化との戦いである。いまだに「ウチの業務は他社と違う」という人が多数いる。
残念だが、それは自分のしごとがわかっていない証拠である。
企業は納税の義務があり、納税や株式公開のために会計原則にしたがって会計をしなければならない。
会計原則にしたがった取引はいろんなやってはいけないことがわかりやすくなるため、やってはいけない。
例えば、
- 迂回取引
- 決算日の違いを利用した循環取引
- 収賄
- 自分のポケットにカネやモノを入れる汚職
- 在庫を転嫁して売上を誤魔化す
などなど。
当たり前と思う人は幸いだ。まったく知らないでこういうことを考えついて「俺、頭いい」と思っている恐ろしいほど無知なサラリーマンもいっぱいいるのだから。
したがって、企業のお金の処理は業種で似たようなものにならざるを得ない。社員が「ウチはユニーク」と叫んでも、法律の前には無力である。
ユニークなのはトヨタ自動車の会計処理くらいになってからである。(実際、すごくユニークだ)
実はアプリケーションといえども、かなりの部分が他社と同じなのである。他社や業界のしごとの仕方を知っていれば、「ウチはユニーク」と叫ばなくなるのだ。
もちろん、全部が同じではない。(最近、物事を二値でしか考えられない人が増えていて困る。「80%同じで20%違う」というと、「同じなのか違うのか」という。議論がかみあわない)
その同じでないことをやらなきゃいけないことが、その企業の大事なところなのか、壮大な無駄なのか、どちらだろうか。
知っている人はその企業で必要な人だろうし、わからない人はパッケージソフトの海におぼれていくだろう。
こうして、単に仕事をしているつもりの人も淘汰されていく。
毎朝、電車で30分以上揺られて出勤する。手ぶらやスポーツ新聞しかもっていない人はきっと学習能力は皆無の社畜で、今までもこれからもしんどい人生だろうな、と思う。