世の中の大半の人は統計や確率になじみがないと思う。かくいう私も専門家じゃないけれど、世の中を見るために大事だと思うことを書いておきたい。
お金という意味でもっとも振幅が大きい人生を送るのは、トレーダーといわれる人々だと思う。債権、株、オプションなどの金融商品のリスクを見ながら、増やそうという人々だ。成績が悪ければクビである。よければ、ものすごいインセンティブ(ボーナスと思えばいい)をもらえる。
1998年にロング・ターム・キャピタル・マネージメント(LTCM)がデリバティブで破綻を招いた。いろいろ破綻したファンドがある中でこれが特筆されるのは、ノーベル賞をポートフォリオ理論でとった、マイロン・ショールズ、ロバート・マートンがかかわっていたからだ。彼らはあの有名な「ブラック・ショールズの公式」を発見した人々だ。
にもかかわらず、めったに起きないはずのことが起き破綻した。確率とは不確定なものであるということをころりと忘れたのである。大学者であっても。
ひるがえって、新聞や本を見よう。大企業の業績がいいのは、かくかくしかじかの理由だ、とか、今日の日経平均が下がったのは、これこれの理由だ、とか理由づけがいたるところでされている。
こうして我々は世の中は不確実なものであるということを完全に忘れる。
さて、ビジネスで最初からうまくいった例、またはずーっとうまくいっている例があるだろうか?
マッキンゼーというコンサルティング会社のコンサルタントが遠い昔に「エクセレント・カンパニー」という本を書いた。この本は超優良企業には成功する理由があるという論理である。出てくる企業は、IBM, GE, ウォルマートなどである。
どれもいまや、超優良企業というべきではないだろう。図体がでかいので存在感はあるが、GoogleやAppleと比べるとはるかに見劣りする。別に彼らが悪いのではなく、勝手に「成功法則」を見つけたつもりになっているほうが悪い。期間の長短はあれど、最終的に企業がうまくいくかどうかは運しだいとしかいいようがない。
つまり、うまくいっている企業の要素を探してもノイズを探しているだけだ。
我々がビジネスや人生でやるべきことは、失敗してしまうことが確実なことは避け、あとは多様にひたすら試みつづけるしかないのだ。
そして、ずーっと繁栄しつづける企業もない。「成功」とはかくもはかないものである、ということは忘れてはならない。
上の例でわかることは、成功要因というものがはっきりしない以上、失敗要因というのもはっきりしないということだ。多くの人が「○○だから、ダメなんだ」というが、それはわからない。あえていうならば、必ず失敗すること、たとえば、収入より支出が多いと赤字になるといったことを避けるということだけである。
個人の生活でも同様だと思う。課長、部長、事業部長、社長。正直にいって、「この人はそのポジションにふさわしい」という人のほうが稀だろう。ほとんどは実力とは関係ない、卒業大学、人間関係、会社の業績などで決まったに過ぎない。
ここでも、つまらない失敗をしなかったということが重要で、それ以外は運だったということがわかる。先の企業の話と同様で、市場に存在し勝負に参加し続けることでしか、勝負は難しいということだ。