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今後の株価の見通し

経済学に「市場効率仮説(Efficient-market hypothesis、EMH)」というものがあります。株価にはすべての情報が織り込まれているため、投資家は超過リターンを得られないとする仮説です。

しかしここ数年、私はこの仮説に疑いをもっています。
理由は2024年から明らかに労働市場に悪化が見られるのに、メジャーな評論家は「景気後退は見られない」としていたからです。昨年の労働市場は失業率は低かったです。しかし労働時間がものすごく減少していました。つまり多くの人がパートタイムワーカーとなり、隙間を不法移民(統計上出てこない)が埋めていたのです。アメリカの新聞では指摘されていましたが、日本のアナリストと称する人々は統計の数字だけを見て表面的な解釈をしていたようです。
それでもリセッション(景気の悪化)はソフトランディングする。全世界のカネがアメリカに集まっているからS&P500は安泰だ、などという話が流布されていました。暗黙のうちに景気がよくないことを見ないでマネーサプライの問題に切り替えていたのです。

これらは「株価が下がってほしくない」という願望から次々に高くあるべき材料を見つけていたということだと思います。
市場効率仮説はどうやら怪しいようです。

昨年から私は「景気後退が来て株価は下がるから株を持つな、撤退しろ」とこのブログに何度か書きました。途中から森永卓郎氏がもっと極端なことをおっしゃっていることに気づきました。予想通りになり損はまったくしていません。

トランプ大統領の関税政策で日経平均が下がったり上がったりしていますが、関税の意味をどれくらいの人が考えているのでしょうか? 関税をかけられてその関税を支払う人は輸出国ではありません。輸入者が支払うのです。
だから消費者は「国内の関税のかかっていない安いであろうもの」を買うという期待があるわけです。
関税を支払う人はアメリカ国民です。経済の悪化は避けられません。S&P500なんてどうなるか明らかです。

では、なぜトランプ大統領は関税をかけて国内生産を押しているのでしょうか?
海外の資料を見れば明らかです。トランプ大統領がこの考えを持った時は昨今ではなく、彼が若いころから「関税をかけて国内生産物を優先しろ」とずーっと言っているのです。(Youtubeにビデオまであります)
安い海外製品が入ってこないとなると、アメリカ国内は今までどおりいかずにリセッション(景気の悪化)を迎えます。現在の国際的なサプライチェーンでは国産品がないものも多く、物価は上昇するでしょう。貧しい人々は「こんなはずじゃなかった」と思い知るでしょう。そうして景気が悪化するとFRB(アメリカの日銀みたいな独立組織)は金利を下げざるを得ません。日本同様に金利を下げ、おカネを市中に流れやすくするのです。
ここでアメリカ政府は高い金利のついたアメリカ国債を金利を安くした国債に借り換えます。こうするとアメリカ政府のかかえる巨額な国債支払い利息をラクにすることができます。これは日本政府も使ってきた手法です。

同時に金利が下がるとトランプ氏のような実業家は借金がカンタンになり、土地転がしが進みます。この政策はトランプ一族にとってもいいことなのです。

これだけのことを大統領任期の4年間でできるかどうかはわかりません。
しかしトランプ大統領はこうしないとアメリカ政府が持続できないことは知っているのです。バイデン政権のころは気軽に国債を発行していて、各所から批判はされていたのです。

トランプ大統領を支持している人々は貧乏人か金持ちです。最近のITサービス業に従事するニューヨークやロス・アンジェルスに住んでいるような知的労働者ではありません。Rust Belt(さびついた帯)と呼ばれるアメリカ中部の工業地帯の高卒で白人の工場労働者です。彼らは仕事がなく、アメリカの変化についていけていません。最近、「デトロイト」なんて地名を聞いたことがありますか?彼らは海外のことなどわかりません。しかし生活できなくなってきているのは海外の安いものが入ってきているせいだと考えています。富裕層は「自由」が大事ですから規制緩和に熱心なトランプ大統領が好きです。
時代遅れとか言われていますが、トランプ大統領は先祖代々工場勤務で暮らしてきた人々に製造業を取り戻そうというのです。同時にそれは船舶すら作れなくなったアメリカが自国に製造力を取り戻すという安全保障の問題解決でもあります。
ここまでを読んで、それでもトランプ大統領は狂っているとか、なんも考えていないなどと言えるでしょうか?

トランプ大統領の政策は愚かではありません。アメリカ側に立ってみれば、それなりのストーリーがあるのです。賛成するかどうかは別です。
そして、このストーリーを理解していないと私達は今後の投資を失敗することになります。
関税の引き上げはちょっと先送りにされても、必ずやるはずです。
直近ではS&P500や日経平均などの株価の暴落は避けられないことがわかります。
しかし経済を叩き潰す意図があるわけではありません。
トランプ大統領の政策が失敗したとします。次の大統領は関税を元に戻し、国際的なサプライチェーンの復活に動くでしょう。だとすると、今回の景気後退から上向くことが考えられます。

それゆえ今は投資をしないで現金で持つ。アメリカの景気後退がはっきりして株価が低迷しだしたら買い時。
それが正しい投資の道ではないでしょうか。
気の毒ですが、NISAやなんやかんやをやっていた素人はやはり損させられて退場でしょう。

経済の地殻変動

追記です。
そもそも今のアメリカ中心の世界はアメリカが独力で勝ち得たと思っているでしょうか? 今までの経緯、つまり歴史を知ることは経済の将来を読むためには必要です。

1944年、米国にあるブレトンウッズホテルに連合国の代表が集まって決めたドルを基軸通貨とする体制を「ブレトンウッズ体制」と呼びます。この時は金1トロイオンス(31.1035グラム)を35米ドルとリンクすることに決め、米ドルを世界基軸通貨と定めました。1971年にウォーターゲート事件で有名な大悪人ニクソン大統領はドルと金の交換の停止を宣言しました。これが通貨に金の保証がなくなった瞬間でした。批判する人は多いですが、今の経済を見ると規模の面で金を後ろ盾にする体制には限界があったことは否めない事実です。

この時からアメリカはドルを作り放題になったのです。ジンバブエが真似して大量に通貨を刷ると、とてつもないインフレが起きましたが、世界相手だと簡単にはインフレになりません。むしろ取引に多くのドルが必要だったので歓迎されました。

しかしブレトンウッズ体制の前提はアメリカが世界の「よい指導者」であることでした。世界の発達に従い、とくにアメリカでは製造業は他国に移り、知的産業が発達しました。残念ながら知的産業は大人数を必要としません。そのためアメリカはとてつもない貧富の差が起きてしまったのです。

さて、ここまでを読んだり新聞テレビを見ていると、まるで世界を政治が動かしているように見えます。しかし政治家がすべてを決めているわけではありません。大企業を経営している人々がいます。この人たちは企業の成長こそが正義ですから、自由貿易、少ない規制を歓迎します。場合によっては本社の所在地を他国に変えることくらい平気です。日本だとパナソニックやトヨタですね。
あまり描かれることはありませんが、政治家とビジネスマンは協力したり対立したりを繰り返しているのです。いくら理念をかかげようと、カネがなければ実現できません。ですからお互いに話し合いの余地は常にあるのです。

こういう観点から経済史の研究を続けている人は私のようなジジイではなく、大金持ちの投資家だったりします。レイ・ダリオという名前を聞いたことがあるでしょうか?投資に関心のある人は彼の著作は読むべきです。長期で考える方法、考えたことなどが丁寧に説明されています。

そのレイ・ダリオ氏が最近、Xに投稿した記事が話題になっています。以下はIn Deepという翻訳されない海外記事で深い洞察のある記事を集めているサイトに譲ります。

富豪で大投資家のレイ・ダリオ氏が「私たちは一生に一度の経済と政治秩序の大崩壊に直面している」と語り、人々に警戒と歴史の勉強を促す

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