起業

経営における帝国と民主主義

2022年に「資本主義と社会主義」という銀河英雄伝説について記事を書いたことがあります。そこでこのように書きました。

今の世界は「銀河英雄伝説」で繰り広げられた議論
「愚昧な人々が集まった民主国家」と「英名な君主が率いる帝国」のどちらが民(たみ)を幸せに導くか、です。
銀河英雄伝説をお読みでない方にネタバレすると、この小説では「愚昧な人々が集まった民主国家」は敗北します。

今、私達はかっこうの事例を見ています。それがセブン&アイ・ホールディングスです。
イトーヨーカドーと言ったほうがわかりやすいでしょうか。子会社のはずだったセブン・イレブンに食べさせてもらっている会社です。

元祖コンビニを日本で作ったのは前会長の鈴木敏文氏でした。彼は本社にもセブン・イレブンを作らせ、週に一度はコンビニ弁当を役員会で食べていたそうです。作り直しを命じたことは数しれず。

しかし2016年に社内クーデターにあい、退陣。

それから7年経ち、セブンイレブンの弁当は悪質な品質、量の低下でネットで叩かれることになりました。「セブンイレブン 詐欺」で検索するとネットには消費者の怨嗟の声が溢れています。

思い起こしてください。「セブンイレブン フランチャイズの闇」でコンビニ経営がいかにフランチャイズ店から搾取しているかが有名になったのも2020年ごろでした。

セブン&アイ・ホールディングスのこのふたつの悪評は関係なくないのです。鈴木敏文氏が去った後の経営陣の無能っぷりは、私から見たら日本が第二次世界大戦に敗れたのと同じ構図に見えます。

記事の冒頭に取り上げた銀河英雄伝説で皇帝となったラインハルト・ローエングラムは私心のない君主として君臨します。帝国国民は喜んで従い、戦争にも勝ちます。一方、ヤン・ウェンリーがいた連邦同盟は私心だらけの政治家達が民衆を煽るポピュリズムのまま没落していきます。

民主主義という旗をかかげることは誰でもできますが、民を幸せにすることは別のことです。あの金一族の所有物である北朝鮮だって正式名称は「朝鮮民主主義人民共和国」です。民主主義というラベルに騙されてはいけません。

人類の政治で起きるふたつの普遍的な問題が提起され続けています。ひとつは民主主義がベストだとは限らない、もうひとつは独裁者の後の後継者問題です。

セブン&アイ・ホールディングスを例にあげます。鈴木敏文という皇帝をクーデターで失脚させた連中は「俺達が民主的にがんばれば業績は伸びる」と思い込んでいたはずです。しかしそれは単なる思い込みでした。セブンイレブンの弁当を毎週食べずに数字だけ見ているから異常が起きていることに何年も気づかずに放置してしまうことになっています。おそらくフランチャイズオーナーの問題も同じでしょう。何年も悲惨な事件に気づかない。後からバイアスのかかった社員の声しか聞かないから「俺は悪くない」「法律に違反していない」風なレベルの低い発言しかできない。経営陣は本当は「やばい」と思っているでしょうけれども、お互いの縄張りがあり会社としての対応はできないか、遅れるのです。
独裁者の去った後の組織は会社でも国でも混迷を極めます。お互いが本当は無責任だし、全体を俯瞰する能力もないのです。

日本軍が敗れたのも、高級官僚である軍人の上位層が数字と妄想だけで戦略を決めて負けたわけです。

有能な独裁者は独裁するだけあって、結果を確認するために現地に赴きます。部分集合の人々は「それぞれがまかされた仕事をやっていれば全体はうまく動くはず」という妄想の上に怠け、結果は全体を表していますから確認しません。

ここまで書くと短絡的な人は「高尾は独裁主義を支持しているのか?」と誤解するでしょう。いやいや、みんなだって独裁者を部分的には受け入れている事実を指摘しておきます。自民党総裁、日本政府総理大臣、最高裁判所長官、各省庁の事務次官、軍の将校、会社の社長、事業部長、部長、課長などなど、すべて規模の小さい独裁者ですよね。法律がどこまで考えて制定されたかわかりませんが、人類は経験的に代表者という独裁者がいたほうが、ものごとが素早く動くことは知っているのです。民主主義という多数決による判断は遅く誰が決めたかはっきりしない無責任ではあるけれども、人の権利は平等という思想から導きだされた次善の策です。
なにごとも民主的に決めようという方法はうまくいかないのです。強固に見えた三権分立さえ安倍晋三によりあやうく叩き壊されるところでした。(彼は役人の人事権を掌握することで支配していたのです)

だからといって戦前の天皇をトップにした血統主義の貴族院がのさばるような政治体制がいいはずもありません。人権をないがしろにしたせいでどれだけの国民が亡くなったことでしょうか。東京裁判をあれこれいう人がいますが、あれをやられなかったら日本はいつものなぁなぁで華族や軍人の戦争責任など追求しなかったに決まってます。

このように歴史的観点から見ると、セブン&アイ・ホールディングスの場合、もう答えは出ているようです。
海外から買収の話がもちあがっているということは、通常考えると現経営陣は「詰み」です。コンビニ戦争の敗者ということです。

外資系に買収された場合、少なくとも契約上の後出しじゃんけんはなくなるでしょう。そんなのアメリカで訴訟になれば一発アウトです。アメリカの裁判所は日本と違って大企業を忖度するなんてしません。マクドナルドのコーヒーでやけどしたという消費者が日本で訴えても地方裁判所は門前払いでしょうけれども、アメリカでは賠償金の支払いが命じられるのです。「法律に則って」という考え方が根本的から違う日本です。

 

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