まず、宋文州さんのメルマガ( 論長論短 No.329)からの引用。
その長女が知らなかった母国のいろいろな側面に驚いていますが、
その中の一つが電化製品の安さです。日本と中国の過去を知らない彼女にしてみれば、
中国製電化製品は「性能がよくて安くて品質が普通」の代名詞です。 今はどうか分かりませんが、私が経営者現役の時、当時のスズキ自
動車の経営者から
「トヨタの普通自動車の原価は当社の軽自動車よりも低い」と聞きました。
理由はトヨタの桁違い販売数です。売値の違いと数を合わせて考えれば
トヨタ自動車の利益力も理解できます。中国製品は安かろう悪かろうの時代はありました。今もそのような
メーカーは
一部残っているでしょう。しかし、都会に住み、中産階級になった5億人が
そのような製品に興味がないことを、中国で生活していれば誰でも分かります。 米国や日本などに輸出している製品は中産階級が選ぶ製品の一部に
過ぎません。
安いのは中国では膨大な数の量が売れているからであって、単なる人件費が安いから
ではないのです。ここ10年の人件費は何倍にもなりましたが、製品の値段は
上がるどころか、むしろ下がり続けているのです。コスト=人件費の発想は
販売数に限界があるときの発想です。(インドとの比較話は省略)
購買力がない時代の中国は人件費が安くても市場がないため、製品
は輸出に
依存するしかありませんでした。日本を含む海外メーカーも自国や輸出のために
中国で作っていたのです。中国進出の目的は中国に売ることではなく、
中国の安い人件費と安いインフラを利用することでした。
しかし、中国に5億人の中産階級が誕生した今、状況はまるで逆になりました。 米国から見れば中国の輸出は減っていないのですが、中国にとって
みれば
米国への輸出が占める販売シェアはどんどん下がっているのです。
仮に全部を止めても国内の1%に過ぎないのです。外資企業も中国市場で
一定のシェアが取れない限り、中国で生産するメリットは殆どなくなります。 仮に安い人件費を求めて東南アジアに移転しても、中国メーカーも
必要に応じて
同じことをやっているので現地の華人社会や陸路搬送のメリットを考えると
人件費の安さを求める渡り鳥モデルには限界があります。ここに米中貿易戦争の本質もあります。「モノの製造コストは販売
数に反比例する」
という原理を考えれば米中の製造業の競争は最初から勝負がついています。
中国が国内消費のあまりを米国に輸出している以上、米国はこのコストに
勝てません。昨年時点では、金額ベースでも中国の小売り販売規模は既に
米国を超えていました。今後、その差が開くばかりでしょう。残念ながら、米国が主張してきた自由競争、自由貿易を続ける以上
、米国の
貿易赤字が拡大していく一方です。トランプ氏が「不公平」と連呼したのは
結果であり、プロセスではないのです。「結果がすべて」と考えるトランプ氏は
やり手経営者として正しいのです。私は両国ともがこの問題を取り込むべきだと思うのですが、米国は
正式に
「自由競争、自由貿易」の放棄を宣言しない限り、無意味な喧嘩が続くのでしょう。
貿易相手国の内部体制まで自分のやり方を押し付けるのは大国同士には
通用しないはずです。今週、中国は分厚い貿易白書を発表しました。統計数字がたくさん
羅列しています。
要は米中間のサービス貿易や中間部品などを統計に入れると中国は決して
黒字を稼いでいないというのです。まあ、中国人の私から見ても「米国人が
こんな難しい統計を見る訳もない上、そもそも双方が見ているものが違う」から、
無駄な努力だろうと思いました。米中の指導者たちが何を言おうとしても、私達中国人はあくまでも
少しでも
自分の生活を良くしようと勤勉に働き、後世の教育にも力を入れるのです。
その結果として1990年に7億5千万もいた極貧人口が2015年には1千万人に
減ったのです。我々は自分たちを極貧から救ったのです。自己救済の結果、中国は再び世界最大の経済規模になろうとしてい
ます(太線筆者)が、
その過程がもたらす変化を中国と世界の双方がどう受け入れるか。
今こそ真剣に見守る必要がありそうです。
この少し長い文章から、あなたはなにを読み取るだろうか。
戦後の人口増加と共に生活水準のあがった日本と同じことが2000年代の中国で起きて、いまや日本より生活水準があがりつつある、という事実を受け入れられるだろうか。
それとも「宋文州は嘘ばかり言う中国人だ」と根拠のない中傷と共に現実から目を背けるのだろうか。
日本と違い国内消費が活発だから、中国製品は大量生産が可能であり安い、人件費が安いからではない、という大事なメッセージを受け取ることができるだろうか?
私のようにAlibabaなどを利用していると、活発な生産力を恐ろしく感じることすらある。
いろんな製品が試みられ続けていて、まるで1970年代の日本のような活発さだから。
「よくマーケティングをして、消費者が買いそうなものを作る」と日本のサラリーマンは考えるのだろうが、中国は「目新しいものを次々と出して、消費者の反応を見る」というまるで逆の発想だ。
その中から爆発的なホームランやそこそこのヒットが出るのだと思う。
そしてそこそこのヒットですら、日本のベストセラーくらいの数量が売れるのが今の中国だろう。
宋さんの最後の言葉はビジネスではすでに日本は敵ですらないのだ。