プレゼンテーションに技術があるということを知っている人すら少ないようです。
私もプレゼンテーションが必要なことはずいぶんなくなりました。
最初に入社した日本IBMでは最初に徹底的にプレゼンテーションの技術を磨かされましたね。
お客の会社のエライさんに話をするための基礎ではありましたから、会社も青二才を鍛えたのでしょう。
後年、コンサルティング会社に努めている人に聞いても「そんなものは習っていない」
大事な技術なのですが、知られていないようです。
プレゼンテーションの本、書こうかな。
そういう中でいくつかの要点を書いておきたいと思います。
これから書くことすべてをふくんだ類書はないと思います。
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私を知っている人は「またか」と笑うでしょうけれども、常々言っているようにプレゼンテーションの理想は日本の伝統芸のひとつの落語です。
落語を聞いたことがない人はテレビを見るか、寄席に行ってください。(休日は激混みなので注意)
なぜならば、落語家は高座の座布団に扇子と手ぬぐいだけで現れ、江戸時代の小さな事件が目に見えるかのように言葉だけで展開します。それでみんなが笑うのです。
みんなが笑うことを、ビジネス上の言葉に置き換えると「説得された」といいます。
落語の手法で学んで欲しいことは数多くあります。
最も重要なことは、「パワーポイント」スライドは必須ではない
プレゼンテーションの極意は手ぶらです。資料主体のプレゼンテーションは邪道なんです。
ここをしっかり認識してください。
話がメインで効果的なスライドを使った名手がいました。そう、故スティーブ・ジョブズです。
彼のスライドはとてもシンプルです。作るのならば、あれがベスト。
スライドに盛る情報は極力減らすこと。幕の内弁当みたいになんでも乗っているスライドはプレゼン用じゃありません。
資料をメインにして話すのはプレゼンテーションではないことに留意してください。
プレゼンテーションは「人を説得する手法」です。
ただ世の中のほとんどの人が認識している大きいくくりでは「人前で話すこと」です。
これから「プレゼンテーション」というものを見たら、単に人前で話していることなのか、人を説得するためのものなのか、どちらなのかは区別してください。
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落語家もジョブズもTEDの面々もそうですが、話をいきなり始めません。
必ず聴衆とのペーシングを数分行います。専門用語でアイス・ブレークといいます。
これは一般的には話者と聴衆の共通点について話すのが原則です。
人は共通点を発見すると、急速に親しみを感じます。
プレゼンのみならず、初対面の人と雑談をするならば共通点を見つけるような話をしてみてください。
もっとも一般的な共通点であるのは、今日の天気や訪問するまでにあった出来事ですね。
そこから自然に本論にはいるのですが、これは難しいです。
落語家も時々、枕をふってお題目のツナギに10分くらい苦しんでいることもあるくらいです。
なので、一般人は
「てなことがありました。さて」
で切り替えてもいいと思います。
切り替え先は多くの場合、
「なぜ、今日、こういう解決策、こういう話をするか」
というWhyから始めると手堅いですし、問題提起そのものを覆されることがないです。
いきなり「課題がある」「解決策がある」といってその課題をひっくり返されると、プレゼンそのものが成立しなくなります。
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本題は必ずストーリーを考えてください。
しばしばなんも考えていないバカは「起承転結」だと言いますが、起承転結でできているストーリーって本当に少ないんです。Wikiで「起承転結」とはこう示されています。
起: 「事実や出来事を述べる」
承: 「『起』で述べたことに関することを述べる。解説したり、それによって起こる問題点を述べる」
転: 「『起承』とは関係のない別のことがらを持ち出す」
結: 「全体を関連づけてしめくくる」
現代のストーリーテリングにおいて「転」を話している人をみたことがありません。
ね、物事ってきっちり考えないと無様なことになるのです。
ビジネスの世界だと上に近いパターンは
課題の提起-(新たなビュー)-解決策-正当性の説明
ですが、
結論-問題の確認-結論の説明-ちょっとした展開、応用-おさらいとしての結論
なんてものも結構あります。
無意味だけどコンファレンスに多いパターンが
市場のディマンド(グラフ)-解決策(製品)-いかにいいか-活用例-まとめ
こういう話は本来プレゼンする必要ないです。
なぜならば資料を配布すればよく、個々の人、団体向けにその人達の心を動かす必然性がないからです。
だから、内容は海外の調査会社のデータか、外資系が世界的にぶちあげているマーケティングストーリ。
オリジナルを話す人はめったにいません。
(なぜならば、オリジナルを話せる人は有能で言ったことに責任をもてるからです。)
プレゼンテーションは別名「アジテーション」と呼ばれ、人の心を動かすためにするものです。
よく”Thank you”とか”ご清聴ありがとうございました”が最後のスライドのプレゼンを見ますが、「おまえが最後に言いたいことはサンキューか」とつっこみたくて仕方なくなります。
それでも、ストーリー展開はマッキンゼーの解説の技法などを見ればわかりますが、資料展開はパターンがあって図表を作り直すだけで、およそ収まります。
ビジネス界にそんなに独創的な解決策はないですから。
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ただし、本当にのるかそるか、相手を絶対に説得したいプレゼンを作りたいならば極意を教えます。
これは私の独自理論です。
それは一人称で英雄のストーリーを語ることです。
世の中のほとんどのゲーム、小説はすべて同じパターンをもっている、ということを見ぬいたのは神話学者の故ジョセフ・キャンベルでした。
細かい話はすっとばしますが、
- 主人公が平穏な生活を送っているところに、
- 前兆の事件が起きます、
- その事件は冒険への誘いです、
- そして主人公は出かけようとしますが、力のなさに倒れます。
- 主人公は賢者に出逢いなんらかの知恵、力、モノをもらいます。
- それを使って冒険にでかけ、
- いくたの困難をくぐり抜け
- 最後に目的を達成します。
- そして故郷に帰るのです。
このストーリーのパターンは太古に神話ができたころから延々と数千年、数万年、人類はネタを変えて引き継いできました。
人はこのパターンだと感動するようにできているのです。
例えば古い話ですが、感動を巻き起こした「一杯のかけそば」を見てみましょう。多少ずれていますが、おおむねこのとおりでしょう。
1. 大晦日の晩、札幌にある「北海亭」という蕎麦屋をいとなんでいるところに
(この話の主人公は実は蕎麦屋です。聴衆は蕎麦屋の立場だから感動するのです)
2. 子供を2人連れた貧相な女性が現れる。閉店間際だと店主が母子に告げるが、どうしても蕎麦が食べたいと母親が言い、店主は仕方なく母子を店内に入れる。
3. 店内に入ると母親が「かけそばを1杯頂きたい(3人で1杯食べる)」と言ったが、主人は母子を思い、内緒で1.5人前の蕎麦を茹でた。そして母子は出された1杯(1杯半)のかけそばをおいしそうに分け合って食べた。
4. この母子は事故で父親を亡くし、大晦日の日に父親の好きだった「北海亭」のかけそばを食べに来ることが年に一回だけの贅沢だったのだ。
5. 翌年の大晦日も1杯、翌々年の大晦日は2杯、母子はかけそばを頼みにきた。「北海亭」の主人夫婦はいつしか、毎年大晦日にかけそばを注文する母子が来るのが楽しみになった。
6. しかし、ある年から母子は来なくなってしまった。
7. それでも主人夫婦は母子を待ち続け、
8.そして十数年後のある日、母とすっかり大きくなった息子2人が再び「北海亭」に現れる。
9. 子供達は就職してすっかり立派な大人となり、母子3人でかけそばを3杯頼んだ。
普通のストーリーではもっともエキサイティングな6,7,8をすっとばしてもこれだけの破壊力があるのです。
ビジネスでもTEDに出てくる人達がほぼ全員、仕事と自分個人のかかわりを話すのは、この英雄ストーリーの「主人公」の自分として話をし、やっていることが「賢者の石」だったりします。
TEDでもわかるとおり、プレゼンの神話は9にまで辿り着く必要はありません。7あたりでも余韻をもって終われます。
逆に、このストーリー展開でよく練られたプレゼンテーションで相手を説得できない例を見たことないです。
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プレゼンはいろんな人のものを見てアイデアをもらったり、目を肥やしてください。
最後に末端の技法を羅列しておきます。
- 人前にたったら、ウロウロしない。ウロウロしていいのは天才ジョブズだけ。マネするな。
- 聴衆をできるだけ、均等に眺め、アイコンタクトする。「俺の話を聞いてるか?」
- 滑舌よく、ゆっくり目で話す。
- 質問されたら必ず繰り返して回答する。
- リハーサルをする
イヤでしょうけれども、もっとも早く上達するのは自分のプレゼンのリハーサルをビデオにとって自分で見ることです。