日本のどうしようもない労働条件についていろいろ見てきたが、さらに景気が悪化しない限り変わらないと思われるので、しばらくやめ。
今回はテクニカルな話です。
NTTが海底ケーブルを敷設する船持ってるってことを知る人は少ないと思います。
この船は災害時には近くの港に停泊し、NTT職員の寝泊まりする場所にもなるのです。
海外との接続をしている海底ケーブルがどのように引かれているか知るどころか関心をもったことないでしょうけれども、次のGIFがわかりやすーいです。
こうやってしこしこ牽いていくのですが、見てわかるとおり海底に「置く」といったほうが正確です。
そのため、漁船の網なんかにひっかけられないように地図で場所は公表されております。
とくにこのあたりをご覧いただくと興味深いかと思います。
海底ケーブルが陸地にあがってくるところを「陸揚げ局」といいますが、千葉が最大であり、次に茨木、浜松です。
地震が起きると当たり前ですがかなりのケーブルが切れることもあることが予想されます。
しかし冗長性がかなりあるのでいきなり通信不能にはなりません。
地震だけではなく、サメにかじられたり岩がこすれて断線したりすることもあります。
(12月5日加筆)NTTの回線の例をあげるなら、九州と沖縄の間には最低、2本之ケーブル。どちらかが切れると衛星通信を使ってでも経路の確保をします。
ところで災害が起きた時、数日で電話回線が通じることにお気づきでしょうか?
災害対策の訓練を受けた人々が災害地域に分け入り、ヘリコプターで電話の簡易局を設置していくのです。
みなさんが考えているよりもキャリアの回線保守は費用とそれなりの人々が日夜訓練していることだけは知っておいてください。
自衛隊の人が「国を守る」ために人生を捧げているように、NTTのこういうジャンルの人々は「国の通信を守る」という強烈な職業意識をもっています。
通信回線の最後の拠り所はやはりNTTなのです。
よくコンサルティング会社などが「災害対策」について海外ネタで机上の空論を講演していますが、実は電力線や電話回線や鉄道の保守をやっている人々のほうがはるかに歴史も経験も長く膨大な経験値を蓄積し今も改善を続けていることにも着目しておいてください。
外に出ないだけです。
海底ケーブルの切断はやっかいです。修復は次のようにやるのですが、場所を特定することはとてもむつかしいのです。結局、潜水艦使って発見するしかないのです。
さて、これらの海底ケーブルは年々、大きな容量をひいています。
KDDIとGoogleは新たにFASTERという線を日本、アメリカの間に引くようです
当たり前ですが、これだけの大工事をするのにひょろっとケーブルを引くわけじゃありません。
ドカンとテラバイト単位の回線を敷設していきます。
これらが数十テラバイトの伝送能力があるからといっても、注意しないといけないことがあります。
ケーブルの中を通る信号はたしかに光を媒体としています。グラスファイバー中で若干速度が落ちるとはいえ、秒速30万キロで進むことは確かです。言い方をかえると秒速30万キロでしか進まないのです。
日本とアメリカはざっくり1万キロあります。つまり、片道1/30秒(0.03秒)の旅です。
話はこれだけではありません。TCP/IPの特性があります。
次の図を御覧ください。
TCP/IPは片方がパケットをいくつか送ると、「受け取った」という信号を送り返して通信が成立します。
これがパケット単位で起きていることに注目してください。
上の例だと0.03X2回=0.06秒で3パケットが送られたことになります。これを「伝送遅延時間」といいます。
このため、みなさんが予想している以上に海の向こうと頻繁な通信が行われるため、いくら早い回線をひいて使い放題だとしてもそれほどの速度は出ないのです。
「早く送れた」と主張する話はたいていデータをいくつかにちょん切って同時に送ることをやっているだけで、たいした技術ではありません。(大学教授にまでなってこんなくだらんことで記者会見やってた人もいました)
ところがアメリカのサーバー、たとえばAmazon.comなどを見てもそんな遅さを感じませんよね。
(このため上記に書いた回線のオーバーヘッド(レイテンシーといいます)を軽視する人が絶えないのですが)
そこには知られざる巨大企業アカマイが出てきます。
この会社は世界中にキャッシュサーバーをおいています。
キャッシュとは一度アクセスされたデータを保持しておいて、再度の参照に素早く答えるメカニズムです。
実はアメリカのアマゾンを見に行っているつもりでデータは東京のアカマイのキャッシュサーバーから送られているのですよ。
大手のWEBサーバーをおいている企業はほとんどアカマイと契約します。Wikipediaによれば
「世界中の様々な企業が顧客となっている。アメリカ国防総省やYahoo!、LINE、Apple、IBM、Amazon.com、メジャーリーグ、日本国内では全日本空輸 (ANA)、読売新聞グループ、日本放送協会 (NHK)、ユニクロなど様々な業界の大手企業が顧客となっている。また、Wiiおよびプレイステーション3におけるコンテンツ配信のインフラとしても採用されている」
とあります。
世界的にトラフィックの多い企業にとっては必須のサービスです。
海底ケーブルとアカマイの組み合わせで世界中のインターネットコンテンツはつつがなく流通しているのです。
(追記:2016/10/2) 意外にアクセスが多いので、もうひとつ大事なことを書いておきます。
「回線」の中を直接TCP/IPが流れているわけではありません。
すべてフレームリレーです。フレームリレーであるからこそ、音声データもデータ通信も混在して通信することができるのです。
最近はTCP/IPしか知らないネットワーク技術者が増えてきましたので、誤解している人が多いようです。
さらについでですが、「俺はTCP/IPに詳しい」と思っている人は「AS」とか「RIP」がなにかわかってますか?
この言葉でだいたい、その人のTCP/IPについての実力がわかります。