YOASOBI経済学

ビジネスネタ

先日、「いまさらYOASOBIの「夜に駆ける」」という記事を書き、動画で遊んでみたんだけれど、今日は本論を書きたいと思います。

本論は「音楽業界におけるこれからのビジネス手法」です。

そもそも私のように音楽は聞いてる一方で、作曲者なんて「いったい頭の中どうなってるの?」と思うような人からすると音楽業界って眺めているだけのものです。
でも、ビジネスオタクとしてはとても興味深いジャンルです。

過去を想像してみましょう。モーツァルトやベートベンが生きていた時代、録音・再生機材はなにもありませんから、生演奏の回数分しか楽曲を聞くことはできませんでした。
私達はまだ、楽譜があるので当時の楽曲を再生できますが、バッハの時代は「自作の曲を残す」という意識すらなかったそうです。聞き手は王侯貴族ですから、ごく限られておりそれでよかったのでしょう。
圧倒的多数の庶民は各地の民謡を繰り返し演奏、歌うことで十分、満たされていたことでしょう。

エジソンが蓄音機を発明し、レコードが出現して、状況は一変しました。
演奏は生演奏以外に、レコード盤さえあれば、どこででも再生されるようになったのです。
音楽を常日頃、聞くことができるというエンターテイメントは20世紀になってから始まったものです。

生演奏は限られた回数、場所でしか行えないため、エンターテイメントの規模としては大事だけれども、さほどの金額にはなりません。レコード盤の売上はビジネスとして巨額になりました。同時に再生機器の製造も大きな産業となりました。

売上をあげる方法は、マスメディアに演奏者を紹介し、親しみをもたせ、演奏を少しさせてみる、という方法でした。
ラジオが普及したことも見逃せません。新曲の推薦はもっぱらラジオでしょう。
リスナーからの再生リクエストは実は貴重なデータですね。
売上は生演奏(コンサート、ライブ)の回数と売り上げたレコード盤の枚数を数えていればよかったのです。

これらのデータで楽曲の売上動向を把握できたわけで、調査会社から「ビルボード」として公表されてきました。
その公表の結果でユーザーは上位の楽曲を求めるという正のフィードバックが働くわけです。

インターネットが出現して、この状況も変わりました。
愚かな日本のJASRACはいまだに「レコード盤、CDの売上が楽曲の人気だ」と主張しています。

しかし、YOASOBIを見てみましょう。
「夜に駆ける」が初めて配信されたのは2019年11月です。
それからYoutube, Shopifyでご存知のようにものすごい回数再生されていきますが、CDが出されたのはなんと2021年11月の「BOOK1」です。しかも限定生産。

すでにCDの販売に主眼を置いていないことは明らかです。

音楽業界はCDの売上の減少にやっきになってきました。「コンサートのプロモーションに過ぎない時代になった」とか「インターネットで海賊版が出回るから売れなくなった」とかいろいろなことを言ってきました。

しかし、YOASOBIは音楽ビジネスの方法が明らかに違うようです。
どう変わったのでしょうか?

まず取り上げたいのは、YOASOBIのヒットの裏側とは データから見る、2020年代の音楽マーケティングという記事です。今の音楽マーケティングに参加している人々がなにを考えているのか、貴重な情報がたくさん出ています。

YOASOBIはソニーミュージックエンターテイメント(以下、SMEと略す)のREDという事業部で作り出されています。REDはこれまでのレーベルの考え方に収まらないような実験的な事業に挑戦できるセクションとされています。

話の発端はSMEの屋代氏が管理していたmonogatary.com(モノガタリードットコム)という小説投稿サイトを音楽につなげられないか、という考えから始まったようです。物語を楽曲にするということは、ギリシアのホメロスの時代からやられていることなので、別段新しい発想ではありません。

屋代氏は候補となるミュージシャンとしてYoutubeでAYASE氏を発見したようです。そして山本氏という同期のアーティスト育成にかかわっている人を巻き込んだということです。
注目するべきことは、手法です。デモテープを送ってくるミュージシャンを採用するかどうか決めるという、よくある話ではなく、最初にアイデアを決め、それにあったミュージシャンを見つけていくというところまで、SMEはやっているということです。

この時には、まだ「夜に駆ける」はおろか、なんの曲の目処もないのです。

とはいえ、この手法は簡単ではありません。従来の音楽プロデューサーではできないのではないでしょうか。
経緯は「コンポーザー・Ayaseと担当A&Rが初めて語り合う「YOASOBIの音楽の作り方」」で少し語られていますが、ソロのボーカロイドPのAYASE氏に多くの人に売れる曲を作らせることは簡単なことではなかったようです。
ちょうど、AYASE氏のエゴの鼻っ柱が折られていたいいタイミングだったようです。
「夜に駆ける」を作り出すまで、30曲近いデモ曲が作られたそうです。AYASE氏の根性がわかります。
そうこうしているうちに、SMEの新人育成にいた幾田りら(ikura)をAYASEが選び、YOASOBIとしてユニットを作ったということのようです。

手法もさることながら、YOASOBIのヒットの裏側とは データから見る、2020年代の音楽マーケティングという記事によると、今の楽曲の売れ行きの把握方法は、CD売上、ダウンロード、ストリーミング、ツイッター、YouTube、ラジオ、パソコンでCDを読み込んだ回数だということです。

CDの売上はすでに多くの要素のひとつです。

これらの指標は限りなくゲームとその周辺のグッズの売上の把握の仕方に近づいていると思います。
おそらくSMEはYOASOBIでやろうとしていることは、音楽だけではないと言えるでしょう。

曲の売上以前に、YOASOBIというユニットがどの程度、知られているかはWikipediaのYOASOBIのページのPVを使っていることも注目すべきことでしょう。細かいところでは間違いだらけのWikipediaですが、知られていない言葉が周知される過程を調べるには有効な方法ですね。(Cookieの活用がだんだん絞られるのでいつまで有効かはわかりません)

そしてどういうものが売れるとSMEの人間は考えているかというと、

リスナーは自分たちの体験や考えと重ね合わせやすくなり、それによって共感を得られているのではないかと。

今の音楽業界は「共感」がキーワードのようです。これは音楽に限らず、すべての業種で重要な考え方でしょう。

紹介したふたつの記事はよく読むといろんな示唆をくれますが、疲れたので文字にするのはこれくらいにしておきます。