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SI会社はコンサルティングはできない

木村岳史氏の極限暴論の今週のお題は「コンサルできないSIer, 「人材がいない」と嘆く社長はアホウ」である。

要点をまとめると、

  1. コンサルティング会社の営業の仕方を知ってるか?
  2. SIerの経営者は社内に「人材がいないから」できないという
  3. SEにコンサルタントは魅力的なキャリアパスだ

前回に続き、木村さんの今回の提案も難しいと言っておく。

まず、NTTコム時代に体験したコンサルティング会社の売り込まれ経験を書いておく。

某外資系コンサルティング会社のヘッドが本を出した。
どういう本か書くだけで、わかってしまうので伏せる。

そこそこの部数は出たと記憶している。私も読まなかったがタイトルくらいは知っていたから。
すると事業部長の上司のところにそのコンサルティング会社のヘッドのお名前でお手紙が来た。
もちろん秘書は捨てるわけがなく、ちゃんと事業部長に届く。
が、そういう手口に飽き飽きしている事業部長は私に放り投げてきて「どう思う?」と聞いてきた。中身は「本のコンセプトや実例をもっと説明したいから時間くれないか」だった。

私は「このコンセプチュアルな話から実現に落とすまでは、だいぶと時間がかかり経費もそれなりでしょうね」と答えたところ、「ゴミ箱に捨てといて」となった。

木村氏がお書きになっていることは嘘ではないし、もう少しNTTコムのもつ課題を公表資料だけからでも事前に調査し問題提起さていれば事業部長や役員は前向きに会っただろう。

コンサルティング会社の「パートナー」と呼ばれる人種はこうやって新しい知見をもとに営業活動をしている。
だからまともなコンサルティング会社には営業という職はない。

しかし、である。

いつも書いているが、SIerはいとも簡単に自社のホームページに「御社の経営課題を解決します」と書いている。
どれだけの人間が会社を経営した経験があるのだろうか?あるわけがない。
下手をすれば、お客さんの企業より零細だろう。知らないからこそ経営をなめきっている。
そんなスキルで経営陣にあったらコテンパンにやられるに決まってる。
そういう時にMBAはやはり役に立つのである。

次の問題がSIerの給料は安い。
AccentiureやABeamなどのコンサルティング会社の給料は若者もそれなりである。
それなりだから高い付加価値をお客にもたらそうとする。(英語がわからないなんて恥ずかしいことを言わない)
そういう会社で働いていたコンサルタントがSIerに転職しようにも、給与体系があわない。
常々書いているように、無理して高い給料を払うと経営者も元からいる社員も過剰な期待とやっかみをその社員にぶつけてしまう。
それじゃ、会社のビジネスも変わらなければ、転職した人も腰を据えて仕事をする気にもならない。
周囲は自分じゃ理解できないくせにネガティブなノイズばかりたてる。

最後に、今のちょっとした企業のシステムって複雑すぎて全体をひとりで描けるなんていう妄想はやめてほしい。
IT、ICT、IOTやクラウドというバズワードと新製品、新サービスがどんどん出てきて、すべてを把握しているエンジニアなんていない。知ってる、というヤツは明らかに嘘つきだ。

某コンサルティング会社は「お客さんの実態を見て、最適なシステムを構築します」という売り文句で急速に成長したが、実態はWindowsサーバー、サービスありきで、途中からLinuxに変わった。
どんな要望がきても「御社にはWindowsサーバーが最適だと思います。」

こういう嘘が平気でまかりとおる業界なのだ。

今の日本だったら、社内の当たり前のプロセス(会計、人事、受発注、サプライチェーン)などについて社内の井の中の蛙を排して他社並の標準レベルにする、IT部門からサーバー追い出してネットワークをシンプルにするということができるだけでも立派なものだ。

それらの標準の上に自社の次のビジネスを組み立てるというところこそ、「第二IT部門」などと騒がれている最前線に近い。

ということはそれぞれの専門家がエンドユーザーを調査、話し合いをしなければそれなりの提案はできない、何人もプロのコンサルタントが必要だということ。
ひとり、ふたりいてもどうしようもない。

まともな提案書(それ以前の仮説でもよい)も作れないし、何度システムを作ってもそこから得られた知見は個人レベルでしか蓄積されない、その場限りのSIerがなぜ「コンサルティング会社です」といえるのか?

そもそもSI(システムインテグレーション)が始まった1980年代、多くの会社が思い描いた夢は「お客の業務は類型化されるはずだ。いくつかのシステム構築をすればそのノウハウで次はもっと簡単になるはずだ。やればやるほど工数は少なくなるはずだ。」であった。
日本IBMにいた当時、「これからはSIをターンキーソリューションとして提供する」という宣言をよく覚えているし、理由は上記のように語られていた。それ以降、PMもやった。

それは今にしてみれば、経験をERPにしていくということではなかったろうか。そんな暇もなければ長期的プランも作れない、その場限りの提案書と見積もりで食べて、毎回まっさら新鮮な気持ちでお客の個別の井の中の蛙の意見を御用聞きとして聞いてきた日本のSI会社に組織としてのコンサルティング能力は身につかなかった。
せいぜい個人が「この業務はくわしくなったぁ。」という程度。

何社かはパッケージ化しようとしたが、お客のわがままを御しきれない営業の強い声にかきけされふっとんだ。できの悪いパッケージともいえないものを宣伝してしまう、そんな会社を何社も見てきた。
メーカー系が作ったパッケージは導入を肝心なお客に導入する時にド素人のエンジニア()がやるからまったくうまくいかず人気は出なかった。

せっかくよいシードを作っても、短期的な視点でビジネスそのものをぶっ潰してしまうのが日本企業だ。大好きな精神論がまったく生かされない。欧米の企業のほうがまだ忍耐力がある。

 

大手メーカーが作ったコンサルティング会社は外資系コンサルティング会社の分家だし、給与体系も安いとはいえ同様なので、なんとかコンサルタントが居つく。
言い換えるとコンサルタントはSIerではやっていられない。

SIerがコンサルティング会社になれるほどの知見を持つ社員を養えるようになれるとはとうてい思えない。

SIerの利益がどれほど低いかは上場企業の財務諸表を見てもわかる。
人を雇って使う企業は、給与でやれることがおよそ決まってしまうのだ。
SIerの社長はアホウではないのである。

*もし、あなたがSIerにいてコンサルタントのようなことをやっている自負があるのであれば、あなたはベラボーに安い給料で働いていることになる。
マゾじゃないなら、さっさとコンサルティングファームに転職すべきである。

(ただし、コンサルティング会社はコンセプトありきなので変化が早い。10年一昔のことをやっていたい人は転職しちゃダメ。そもそも、それじゃエンジニア失格だけどね。)

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